大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)30号 決定 1958年12月04日
抗告人 古川留子(仮名)
主文
原審判を取消す。
抗告人の名「留子」を「とし子」と変更することを許可する。
理由
本件抗告の理由は、抗告人はすでに多年にわたつて「とし子」を称して来ており、改名によつて他人に何等の迷惑を及ぼすことがなく、右は戸籍法第一〇七条第二項所定の名の変更についての正当事由にあたるのに、その申立を却下した原審判は失当だというにある。
よつて考えてみるに、抗告人本人の審尋の結果、同人より提出された郵便物等によれば、抗告人の名は「留(とめ)子」であるが、小学校に在学中、他人から殊更らに「と」の音をひきのばしその語尾に「め子」を接続させることによつて女子の恥部を表わす呼び方をもつてからかわれ、そのために非常にはずかしいおもいをしたので、「留子」の名を極端に忌み嫌うようになり、小学校卒業以来、戸籍上の氏名によらざるを得ない公けの関係を除いて私生活上は専ら「とし子」の名でとおして来た結果、今日においては日常生活の上では通名の「とし子」で一般に認識されるに至り、書信の住来は古くから右の通名によつているほか、昭和二三年以後は郵便貯金も「とし子」の名で預け入れ、青年学級の修業証書も「とし子」として授与されているなどの事実を認めることができる。
かくして、上叙の如き永年にわたる通名の慣用により抗告人が現在社会生活上一般に「とし子」として認識されるに至つていることは、その戸籍上の名「留子」を通名の「とし子」に変更するにつき戸籍法第一〇七条第二項にいわゆる「正当事由」に該当するものというべきである。
よつて本件抗告を理由ありと認め、家事審判規則第一九条第二項に則り原審判を取消し主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 加納実 裁判官 小石寿夫 裁判官 岡部重信)